もしも、奥入瀬渓流が歩行者天国になったなら...

 

 1999年3月10日未明、奥入瀬渓流に土砂崩壊事故が起きました。6月26日に復旧するまでの3ヶ月以上に渡って、全面通行止めになってしまったのです。これは大変なことになったと、関係者は一様に大きなショックを受けたのものでした。私はこの状況をウェブページで お知らせするために、撮影機材を背負って何度となく奥入瀬に足を運びました。
 


 それは5月上旬の新緑の頃。いつものようにカメラを抱えて奥入瀬入りした私は、大きな驚きと出くわすことになりました。私を包み込む環境というかコンディションが、それまでとは全く違っていたのです。

 緑滴るブナの若葉が、ゆらりゆらりと揺れている。淡い光は漂うように、ほのかな風は戯れているかのように。 奥入瀬の水は輝き ながら、嬉しそうにころころと流れている。土の匂いや、咲き始めた花々の香りが心地よい。耳を澄ませば、鳥や虫たちのシンフォニー。美しい、実に美し い。そして、なんて穏やかな空間なのだろう。 久しく忘れていた安らぎなのか、懐かしさのような思いが込み上げてきました。私は撮影することも忘れ、ただ茫然と佇んでいたのでした。
 と、目の前を飛び立った野鳥に、私はハッと我に返りました。人工的な音や気配は微塵もありません。完璧なアンプラグド−UNPLUGGED−私は文字通りの大自然に抱かれていたのです。そこは日常的に眺めていた奥入瀬とは決定的に異なってい ました。車が通らないということが、こんなにも空間や環境を変えるものなのか?...そうだ、これこそが奥入瀬渓流本来の姿なのだ!と 単純な、しかし、重みのある事実に気付かされたのです。
 


 以来、私たちは奥入瀬の本来の姿を取り戻し、多くの方々にその空間や環境を楽しんで戴くため、奥入瀬渓流の歩行者天国化を訴えてきました。幸いなことに 2002年12月から国土交通省東北運輸局による観光TDM(交通需要マネジメント)調査が 始まり、私たちはこの調査と手を携えて奥入瀬渓流の歩行者天国化を訴え続けていこうと考えています。

 さて、奥入瀬渓流の歩行者天国化と言ってもピンと来る方は、意外に少ないことがわかりました。ならば、その空間イメージを目に見える形にする必要があります。そこで私たちは『ブナの木陰の音楽会』を開催いたします。スプリング・エフェメラルと呼ばれる早春の植物が、一面に花を咲かせる頃から始めて 、晩秋の風が吹く季節まで。この青い森の中のあちこちで、音楽会を開こうというものです。考えてみれば、青森県内にはそこらじゅうに 、あづましい空間が存在していたのです。ご一緒にそのあづましさを創り、楽しみましょう!

 

2007年音楽会スケジュール

 

※あづましい:津軽弁の形容詞−穏やかで気持ちのよい様、状態。